疲労に良いとされる成分って、噂話レベルではいろいろ耳にしますよね。結局どれがいいの?ってなっちゃうぐらい。噂話はいろいろあるけど、科学的根拠はどうなの?って話もたくさんあります。
でも、実は国がスタートさせた研究によって、「どの成分に優れた疲労対策効果があるか」はすでに明らかにされています(そして、それぞれの成分の効果の程度や、順位づけも)。ご存知でしたか?
国と大学・医薬品メーカーなどの民間も巻き込んでの一大研究プロジェクト『抗疲労プロジェクト』によって、特に優れた疲労対策効果をしめす6つの成分が選び抜かれました。この6つの成分こそが、疲労解消や疲労回復に効果を発揮する、上位6種の成分なわけです。
今回は、抗疲労プロジェクトの研究によって明らかになっている、疲労対策効果が高い上位6種の成分についてご紹介します。
この記事のここがポイント
- 抗疲労プロジェクトが、疲労に良いとされる23種類の食品成分の上位6種を選出
- 疲労とは細胞のダメージによって、エネルギー生産力が低下している状態のこと
- 細胞のダメージを防ぐ、エネルギー生産を補助する、の2つのアプローチがある
- イミダペプチド・クロセチン・プロシアニジン・還元型CoQ10が細胞を守る
- クエン酸とオルニチンがエネルギー生産を補助する
抗疲労プロジェクトとは
疲労による経済効率の低下や医療費への懸念から、疲労についての研究は国を上げての研究課題となっています。
1991年に厚生省の慢性疲労研究班の研究からスタートした疲労研究は、その後文部科学省へと引き継がれ、2003年には5つの大学と医薬品メーカー・大手食品メーカー計18社が参画。産・官・学が一体となって進めるプロジェクトへと広がりを見せました。それが抗疲労プロジェクトです。
プロジェクトの目的は「本当に疲労効果がある医薬品や食品の開発」でした。実験と研究の過程で、疲労に良いとされる23種の食品成分のうち、6種類の成分が抗疲労に効果的であることがわかりました。いわば6大抗疲労成分です。抗疲労プロジェクトでは、選び抜いた6大疲労対策成分を、さらにその機能性について詳しく調査したのです。
その6大疲労対策成分とは、次の6つの物質です。
- イミダゾールジペプチド
- クロセチン
- プロシアニジン(アップルフェノン・りんごポリフェノール)
- 還元型コエンザイムQ10
- クエン酸
- オルニチン
疲労とは、エネルギーの生産力が低下している状態のこと
疲れた。もう動けない。元気が出ない……。
そういうとき、私たちの体の中では一体何が起こっているのか、考えたことはありますか?
私たちの体を形作っている細胞、その細胞のひとつひとつの中で、生命活動に必要なエネルギーは作られています。
しかし、活性酸素の攻撃による酸化ストレスのせいで、細胞は常にダメージに晒されています。運動をしたり、緊張状態におかれたりすることによって、大量の活性酸素が発生して細胞のダメージは大きくなりますが、日常生活においても、呼吸をしている限りは活性酸素が常に発生しています。
そのダメージにより細胞の機能が低下して、エネルギー生産能力が低下します。このエネルギー生産能力の低下を「力が出ない」「元気が沸かない」という実感となって体感するわけです。これが「疲労」という状態です。
ですから、疲労対策のアプローチは2つあると言えます。
- 抗酸化物質によって活性酸素を除去して、酸化ストレスから細胞を守る
- クエン酸回路を活性化して、細胞のエネルギー生産力を補助する
有効とされた抗疲労成分は、大きく分けて2種類
さて、前述の6大抗疲労成分も、大きく分けて2種類に分かれます。
- 主に「特別に優れた抗酸化作用」により、抗疲労効果を発揮する物質
- 主に「エネルギー生産力の向上作用」により、抗疲労効果をもたらす物質
抗疲労プロジェクトで明らかになった、疲労に効果的な6大物質のうち、前者のはたらきをするのはイミダゾールジペプチド、クロセチン、プロシアニジン、還元型コエンザイムQ10。後者はクエン酸、オルニチンです。
イミダゾールジペプチド…最強の抗疲労効果をもつ抗酸化物質
イミダゾールジペプチドは「特別に優れた抗酸化作用をもつ物質」です。鶏むね肉やマグロやクジラの赤肉に多く含まれます。
抗疲労プロジェクトで重要視された6大抗疲労成分の中でも、最も抗疲労に効果的であるとされたのが、イミダゾールジペプチドです。抗疲労という観点では、最強の抗酸化物質と言えます。
イミダゾールジペプチドは、とにかくその優れた抗酸化力が目を引きます。
強力な抗酸化作用によって、疲労の原因となる活性酸素を除去し、酸化ストレスを防止することによって持久力(疲れにくさ)・活動パフォーマンス・活動後の休息による疲労回復力を底上げします。
イミダゾールジペプチドの効果効能などについては、当サイトではたびたび取り上げており、別の記事でも詳しくまとめています。
こちらをご覧ください。
6大抗疲労成分の中でも、最強の抗疲労成分として紹介されることが多いイミダゾールジペプチド。抗酸化作用による抗疲労という点だけを見れば、イミダゾールジペプチドほど優れた成分は見当たりません。疲労の軽減に対する効果は他の追随を許さないでしょう。
ところで、「イミダゾールジペプチドが最強」なんていうと、それ以外の抗疲労成分は摂る必要が無いかのように聞こえますが、そうとも限らないんですよ。というのも、6大抗疲労成分は「眼にも良い」「肝臓にも良い」などなど、どれも個性的な特徴を備えているのです。
クロセチン…眼精疲労に良い、希少な抗酸化物質
クロセチンは「特別に優れた抗酸化作用をもつ物質」です。
とりわけ眼精疲労に良いということで、一部でマニアックな支持を得ているのがクロセチンです。香辛料として有名なサフランや、植物のクチナシの種子などに含まれているほか、栗きんとんなどにも入っています。
かなり高い抗酸化力をもち、疲労に対してもすばらしい効果を発揮しますが、特筆すべきなのは、やはり眼精疲労への作用でしょう。
眼へと通じる血管の関所(血液網膜関門)を通り抜けることができる物質は限られており、どの抗酸化物質でもできるというものではありません。クロセチンはこの関所を通り抜けて眼まで届く抗酸化物質の中では、おそらく最も優れた抗疲労効果を持つと思われます。
プロシアニジン…レスベラトロールの3倍!別名・スーパー茶カテキン
プロシアニジンは「特別に優れた抗酸化作用をもつ物質」です。
りんごポリフェノールに含まれる、直接的な有効成分がプロシアニジン。主に青くて渋いりんごに多く含まれる、りんごの渋味成分です。とりわけ皮と果肉の境目のあたりに多く含まれます。赤くて甘く熟したりんごは、プロシアニジンが少ししか含まれておらず、大半のプロシアニジンから別の物質(アントシアニン)へ変化してしまっています(アントシアニンもけっこう高い抗酸化力はあるんですけどね)。
お茶などに入っているカテキンも疲労を軽減してくれることが知られていますが、プロシアニジンは、カテキンがいくつか連なったような構造をしており、カテキンのパワーアップ版のような感じの物質です。
そこそこ強い抗酸化作用をもつことで知られるレスベラトロールの3倍以上の高い抗酸化力をもつといわれ、その高い抗酸化力が6大抗疲労効果のひとつに数えられている理由です。
還元型コエンザイムQ10…強い抗酸化作用があり、その機能性の高さは未知数
還元型コエンザイムQ10は「特別に優れた抗酸化作用をもつ物質」です。肉・魚・野菜など、さまざまな食品に含まれています。
実は、昔はコエンザイムQ10といえば「うさんくさい食品成分の代名詞」的な存在でした。「抗酸化作用」「エネルギー生産を助ける」「がんにも良い」「美容にも良い」などと、イマイチ何に効くのかあいまいで、それを説明する論文なども論理性を欠いていたものが多かったからです。
コエンザイムQ10の抗疲労効果は、主に抗酸化作用によるもの…と考えられていますが、実は、なぜ効くのかはよくわかっていません。しかし、今回国がスタートさせた抗疲労プロジェクトの調査結果により、高い抗疲労効果を得られるということは、ひとまずハッキリとわかりました。今までうさんくさいと考えられていた成分が、実は非常に高機能な成分である可能性が出てきています。今後の研究に期待したいですね。
ただ、注意していただきたいのは、コエンザイムQ10には還元型と酸化型の2種類があり、抗酸化作用(抗疲労効果)があると考えられているのは「還元型」のほうのみです。
クエン酸…エネルギー生産の基本となる超重要成分
クエン酸は「エネルギー生産力を高める作用をもつ物質」です。梅やレモンなどに多く含まれます。
人体の細胞内には、摂取した栄養を取り込んでエネルギーを生産する回路があります。これをクエン酸回路(クエン酸サイクル)といい、その名のとおりクエン酸が重要なはたらきをしています。
クエン酸が不足すると、回路の働きが悪くなってしまい、生命活動に必要なエネルギー生産力が落ちてしまうため、疲れを感じやすくなったり、パフォーマンスが低下してしまいます。
クエン酸は、抗酸化系成分との相乗効果が期待できる
クエン酸自体も多少の抗酸化作用をもちますが、クエン酸がもつ抗疲労効果の源泉になっているものは、抗酸化作用ではありません。クエン酸は、エネルギー生産力を高めることによって、疲労対策として強力に働くことができます。
そういう意味では、クエン酸(や、この後紹介するオルニチン)は、上記に挙げたような『抗酸化作用を主とした疲労対策成分』とは一線を画しています。作用の主なポイントがまったく異なるのです。
というのも、抗酸化作用は、酸化ダメージから細胞を守ることでエネルギー生産の低下を防止する効果がありますが、一方でエネルギー生産能力そのものを直接サポートするものではありません。
抗酸化作用によって細胞を守ることは、疲労の根本原因にアプローチすることになるので、とても重要なことではありますが、「体のエネルギーが不足している感覚」つまり疲労感こそが、疲労の直接的な症状なのですから、これに対する対処ができれば、万全な疲労対策と言えるでしょう。”原因と症状をダブルでブロック”ってなもんです。
ですから、イミダペプチドを代表とする抗酸化作用系成分と同時に、クエン酸を摂ることで、相乗効果が見込めます。
なお、クエン酸回路は、乳酸や脂肪なども取り込んでエネルギー生産に活用するため、筋肉を酷使した後の回復力や、脂肪燃焼力にもかかわってきます。
オルニチン…広範囲をサポートして抗疲労効果をもたらす万能成分
オルニチンは、クエン酸と同様に「エネルギー生産力を高める作用をもつ物質」です。貝類のしじみに多く含まれています。
オルニチンも、クエン酸と同じく、クエン酸サイクルを活性化するはたらきがあります(つまり、抗酸化系成分との相乗効果があります)が、クエン酸の場合とは別のプロセスで作用します。
アンモニアを分解することで、クエン酸回路を応援するオルニチン
肝臓には、アンモニアを解毒するオルニチンサイクルという機構が備わっているのですが、オルニチンはこのオルニチンサイクルを活性化します。アンモニアの分解を促進して、アンモニアを減らしてくれます。
アンモニアは、クエン酸サイクルの活性を妨げる原因のひとつです。ですからアンモニアが減ることで、間接的にクエン酸回路のはたらきが高まります。
クエン酸回路そのものに対するはたらきは、もちろんオルニチンよりもクエン酸のほうが、直接的に働きかけるため強力ではあるのですが、オルニチンはクエン酸回路の活性化のほかに、アルコールによる疲労に対しても強力に働きます。
お酒が好きな人におすすめ。オルニチンがアルコールによる疲労を軽減
お酒をよく飲まれる方は「あ~、あれね」と思い当たるかもしれませんが、酒飲みに特有の脳の疲れというものがあります。アルコールを摂ると、脳がエネルギー不足になってしまうのです。
脳は、エネルギー源として糖やケトン体という物質を使用していますが、アルコールの摂取によって、この糖とケトン体の生産を妨げるNADHという物質が増加してしまい、脳のエネルギー不足=脳の疲労に陥ってしまいます。
NADHはアンモニアを分解する際に消費される物質なので、アンモニアの分解を促進するオルニチンは、アルコールによる疲労も軽減してくれるわけです。
毎晩遅くまでお酒の付き合いがあり、その上睡眠がろくにとれず、酔いのせいなのか疲れのせいなのかわからない状態ってありますけど、そんなときにおすすめできる成分がオルニチンです。
たかが疲労とあなどるなかれ。あなたの生活の充実と健やかさのために
仕事がハードだ…。家事のやる気が沸かない…。帰宅すると何もしたくなくなる…。休日に外出する元気がない…。
疲労とは、私たちが元気で充実した生活を送る上での妨げになる、最も基本的な障害ですよね。
「たかが疲れぐらいで」「気合いが足りない」なんてことを言う人もいます。でも、これはとんでもない暴言です。
今回ご紹介したように、疲労の原因は細胞へのダメージです。そして細胞が攻撃を受けることは、場合によってはさまざまな重大な病気へと発展する可能性を秘めています。その可能性は年齢を重ねるほどに大きくなるでしょう。
それに、人間80年、私たちが生きていられる時間は限られています。その限られた時間の質、生活の質を向上すること。あなたが幸せであること。そのこと以上に重要なことが、この世にあるでしょうか?
そのために出来る工夫があるならば、やらなきゃダメです。