アトピー性皮膚炎という疾患は、ポピュラーな皮膚疾患ゆえに他人からは軽く見られる場合がありますが、患者本人にとっては重大事です。
たとえば子供のアトピー。心配ですよね。日々の学業への集中力にもかかわりますし、受験や就職といった将来を左右する機会もたくさん迫ってきます。
また、顔面などの容姿の印象を左右する部位で起きる炎症は、人格形成にも悪影響を及ぼすかもしれません。
また、子供ばかりではありません。いわゆる大人アトピーです。昔は、アトピー性皮膚炎といえば子供の病気でしたが、アトピーという疾患の中身もだいぶ様変わりしていて、現在では子供から大人まで、幅広く見られる皮膚疾患となっています。酷いときには社会生活を送ることもままならないほどの状態になることもあります。
しかしそれにしても、アトピーという症状はさまざまな疾病と比べ、なかなかに出所の不確かな噂が多く飛び交っているトピックです。
何を食べれば良いのかわからなくなるほど多種多様な食事制限の噂。アトピーに良いとされる食べ物の噂。ステロイドは塗るべきか避けるべきか論争。根拠の不明な漢方やわけのわからん水などの民間療法も花盛りといった有様です。
アトピーって実際どうしたらいいの?アトピーの本当の話をお伝えします。
この記事のここがポイント
- アトピーの最も大きな原因はリノール酸とアラキドン酸
- アトピー炎症発生の真のメカニズム
- オメガ3脂肪酸が重要。ただしバランスが大切
- 具体的な食事法 油に注意しながら、肉1魚3
- 「ステロイドの副作用」はウソだらけ。軟膏は心配ご無用
- 「ステロイド→酸化コレステロール」のウソ
- 良い皮膚科を見分けるポイントは「治療プラン」
アトピーの主な原因は?
アトピーの原因についても、さまざまな説が叫ばれています。まるで、この世の何もかもがアトピーの原因であるかのようです。
黄色ブドウ球菌などの皮膚常在菌のバランスや、車の排気ガスやハウスダストなどの環境要因、シャンプーや石鹸などの毒が皮膚から体内に入りアレルゲンとなるという説、汗に混じる特定のたんぱく質がアレルゲンとなっているという説など。
これらの説はどれも、確かに部分的にはアトピーの原因になりえます。しかしあくまで部分的なもので、主要な原因ではありません。「そういうこともあるかもね」という説です。
では、アトピーの主な原因とは、いったい何でしょうか?
アトピーの原因は食事、特に油と肉。「リノール酸」とそこから代謝されてできる「アラキドン酸」がアトピーの原因
現在でこそ、非常にポピュラーな皮膚疾患であるアトピーですが、その昔、アトピー性皮膚炎という病気は日本には無く、日本人の患者はいませんでした。
といってもそんなに大昔の話ではありません。たかだか50~60年前までの話です。アトピーとは私たちの世代で現れたばかりの現代病なのです。
なぜ突然この疾患が出現したのでしょうか?
その最も大きな理由は、食生活の変化にあると考えられています。
ここ数十年で、私たち日本人は、食生活が急激に欧米化していきました。魚を食べることが少なくなり、肉を食べる機会が急増し、調理に使用する油も変わり、これまで口にしたことがなかった調味料を使用するようになりました。
それにより、私たちは急激にある物質を大量摂取する食習慣になりました。その物質とはリノール酸とアラキドン酸です。
リノール酸がアラキドン酸を経て、アトピー炎症の原因物質になる
リノール酸は不飽和脂肪酸の一種で、その中でもオメガ6脂肪酸に分類される物質です。身近なところではキャノーラ油(菜種油)べに花油、胡麻油などに多く含まれます。
オメガ6脂肪酸に含まれるリノール酸は、代謝されてアラキドン酸という物質へと変化したのち、最終的には湿疹や炎症の原因となるプロスタグランジンといった物質を産生します。これがアトピーの原因です。
また、牛や豚、鶏といった動物の肉には、アラキドン酸が多く含まれています。リノール酸から代謝せずともダイレクトにアラキドン酸を摂取することになるぶん、肉食はアトピーにとって非常に危険といえます。
とどのつまり、アトピー対策とは、このような炎症原因物質へ変化してしまうアラキドン酸やリノール酸を含む食品を避ければ良いのです。
アトピー対策。αリノレン酸(オメガ3脂肪酸)をとろう
さて、中近世までの日本人は、どのような食生活を送っていたでしょうか?
肉を食べる機会が非常に少なく、たんぱく源としては魚を多く食べ、食用油としてメジャーだったのはエゴマ油です。魚もエゴマ油もオメガ3脂肪酸の一種αリノレン酸が多く含まれる食品です。
ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)は有名なので、みなさんご存知かと思います。動脈硬化の予防や中性脂肪の低下、記憶力の向上といった良いはたらきをしてくれる物質ですが、これらはαリノレン酸が代謝されることで産生されます。
オメガ6脂肪酸を含む食品を避け、オメガ3脂肪酸を含む食品を中心にした食事をとることで、アトピーの原因を排除し、これら良性の物質の恩恵を受けられます。
とはいえ、魚ばかり食べるのもけっこう大変なもの。オメガ3脂肪酸を手軽に摂ることができるサプリメントもあるので、これらを賢く活用しましょう。
ただし、リノール酸も必要な物質。αリノレン酸とのバランスが大事
さて、単純にオメガ3であるαリノレン酸は善玉の物質で、オメガ6のリノール酸は悪性の物質だというのは、おおむねそのとおり。
……なのですが、それは現代の一般的な食生活では食事の中でリノール酸を摂る機会が多すぎて、リノール酸を摂りすぎてしまいがちであるためです。リノール酸にも私たちの体に与える良い影響もあります。
- コレステロールや中世脂肪を抑える
- 細胞をつくる際の材料となる
問題はバランスなのです。リノール酸は、まともな食生活を送っているかぎり不足することはまずないので、αリノレン酸を多くとるよう意識しましょう。
具体的なアトピー対策、食事法4つのポイント
一般的にはαリノレン酸1:リノール酸3~4の比率でとることが健康的であると言われていますが、アトピーで悩む人はαリノレン酸1:リノール酸2~3ぐらいの比率を目指したほうが良いでしょう。
具体的なポイントを箇条書きにしました。以下の4点に気を付けましょう。
- 肉が主菜の食事を1食とったら、魚が主菜の食事を3食とる(もちろん全食魚でもOK)
- 肉をとった日はサプリメントでオメガ3脂肪酸を補う
- 油はサラダ油などを避け、リノレン酸が比較的少ないオリーブオイルやエゴマ油を使用する
- 調味料、味付けも和食・和風が好ましい
ステロイド軟膏の副作用を必要以上に怖がらない
ステロイド軟膏の危険性やステロイド軟膏の副作用についてネットで調べたら、恐ろしい副作用がズラーッと列挙してあった。もう使うのをやめる!
……ちょと待ってください。それは本当に「ステロイド軟膏の副作用」の情報でしたか?もしかして「ステロイドの副作用」と書かれてありませんでしたか?
以前、ステロイドの危険性についてメディアでよく騒がれた時期がありました。いわく、ステロイドには、「副腎機能の低下」などの、命や日常生活を損ねる重大な副作用があるのだそうです。
しかし、それらの副作用はあくまで内服(経口摂取や注射)した場合の話。内服薬と軟こうではまったく話が変わってきます。皮膚に塗るだけなら副腎機能は低下しないし、長期の使用で効果が弱まったりもしません。
そもそもステロイドって何だ?
ステロイドとは、私たちの体内で分泌されている副腎皮質ホルモンのひとつです。炎症を抑えたり、免疫機能にブレーキをかけたりするために、腎臓の上のほうにある「副腎皮質」という組織が分泌します。
そのホルモンを薬として使っているわけですが、ステロイドを長期的に内服(経口摂取や注射)すると、副腎皮質がステロイドを分泌しなくなってしまい、それが原因で生命にかかわる副作用を引き起こします。しかしあくまで内服の場合であって、軟膏(外用薬)として皮膚に塗るぶんにはそのようなことは起きません。
メディアでさんざん叫ばれている「内服薬ステロイド」の副作用の印象があまりにも強烈なため、みなさん勘違いをされていますが、ステロイドの副作用として紹介されている重篤な症状のほとんどは、ステロイド軟膏では起きません。「ステロイドの副作用」と一言で言っても、内服薬と軟膏では体へのアプローチの仕方が全く異なるので、当然ながら副作用の内容も異なります。
ステロイド軟膏(外用薬、塗り薬)の副作用
ステロイド軟こうには、俗に言うステロイド(内服)のような重篤な副作用はありません。とはいえ、ステロイド軟こうにも、副作用が皆無というわけではありません。
- 細胞増殖を抑制するため、皮膚が薄くなる
ステロイド軟膏は強さが段階に分かれており、適切な強さや量で使用するぶんには問題ありません。しかし強すぎるものを長期で使っていると、ステロイドは皮膚細胞の増殖を抑制してしまうために皮膚が薄くなってきます。
皮膚が薄くなった部分は、下にある血管が透けて毛細血管が浮き上がってみえるようになります。
ステロイド軟膏は「酸化コレステロール」にはならないし、炎症の原因にならない
ステロイド軟膏を塗ると、皮膚に沈着し、皮下で酸化コレステロールという不要物として蓄積され、これが炎症を引き起こす原因になるという説があります。
某医師が書いたある書籍が発端となって、根強く残っている都市伝説です。インターネット上でもいまだによく目にする説ですが、そのような学術論文はありませんし、裏づけとなるデータもありません。つまり、科学的根拠がありません。
そもそもステロイドは、健康な人間なら誰でも体内で作っているホルモンです。薬として使った場合だけ酸化コレステロールになるというのがまずおかしいですし、軟膏として皮膚に塗ったステロイドはすぐに代謝されて体外へ排出されます。また、前述の書籍内でもステロイドが酸化コレステロールになるという証拠は提示されていません。
ちなみに、この説はさらに「ステロイド軟膏は塗りすぎると死ぬ」という極論まで発展しています(笑)が、そのような事例が起きたことは国内・国外問わず、人類の歴史上でこれまでに存在しません。
さらに余談ですが、このときこの書籍を書いた医師は、脱ステロイドのために針治療を推進したいという意図があったようです。
ステロイドはアトピーを改善しない
ステロイド自体は、アトピーを改善するためのものではなく、症状を抑えるためのものにすぎません。
つまりステロイドの処方は対処療法です。実際、日本皮膚科学会もそのような診療を行うことをガイドラインに記載しています。
では、ステロイドはアトピー治療に不要なのかというと、そうではありません。アトピー治療にとって、症状を抑えることはとても重要なことです。
そりゃあ体に備わった自然治癒力にまかせても、上手くすれば完治するかもしれませんけど、治療が確実に遅れますし、寝ている間にかきむしったところからばい菌が入ったりして、他の皮膚病に発展する可能性もあります。
皮膚だけで済めばまだ良いですが、血液から血管や脳の障害に至った事例も、アトピー治療の現場で実際に起こっています。症状を抑えることを怠ったがために、場合によっては生命の危険にさらされたり、重篤な後遺症につながった事例があるんです。
一方で、先ほど述べたように、ステロイド軟膏の塗りすぎで死亡した事例はありません。自然治癒力だけに頼った治療法を推進している書籍やメディアをうのみにしないようにしましょう。
ステロイドとは別に、食生活の見直しなどの根本的な対策も並行して行えば良いのです。
民間療法や科学的根拠の無い方法を信じて、ためしてみて、被害をこうむるのはあなた自身かもしれませんし、あなたのお子さんかもしれませんが、少なくとも、それらの治療法を紹介している書籍の著者やメディアは、あなたやあなたのお子さんがどうなろうと、痛くもかゆくもありません。
ステロイド依存性は、あるかもしれない
よく「ステロイドは依存性があり、やめられなくなる」という話を耳にしますが、その理由は内服した場合にステロイドの分泌力が低下してしまうからであり、要するにこれも「内服した場合」の話。軟膏として使う場合は心配ありません。
しかし実は、これとは別に、ステロイド依存性はあるのではないか?という説もあります。実際に医療現場で、ステロイドの使用を中止することで治ったという例は、多くはないとはいえ、無いわけではありません。
ただし、そういった例でなぜ治ったのかは依然として不明なままです。アンチ・ステロイド派はそれを「これまでの症状は酸化コレステロールによるステロイドが招いた症状だったから、ステロイドをやめたことで治った」と説明しますが、先述したように、ステロイド軟膏が酸化コレステロールになるという話には根拠となるデータがありません。
実際、多くの場合はステロイドにより症状を抑えながら完治に至ります。しかし、もしも何年も治療し続けているならば、お医者様と相談してステロイドの使用中止を検討してみるのも一考かもしれません。
良い皮膚科の見分け方。良い医師に診てもらうために、アトピー患者が知っておくべきこと
アトピー治療に関する話題には、ステロイド推進派と脱ステロイド派の論争があります。その論争がさまざまな説を生み出して混乱をまねいているのが、アトピー治療というトピックの現状です。
とはいえ、両者の間で共通している意見もあります。
- ステロイド軟膏は漫然と塗っていてはいけない
- ステロイド軟膏自体はアトピーを改善しない(症状を抑えるだけです)
- アトピーの根本原因に対処するには食生活の改善が重要
この点で両者の意見は一致しており、上記の3点は確かであることがはっきりしています。ステロイド軟膏に重篤な副作用は無いとはいえ、ステロイド推進派も「ステロイドを使わずにすむなら使わないほうが良い」と考えているのです。
さて、とりわけアンチ・ステロイド派の書籍やインターネットメディアの中には、このような話をしてくるものもあるでしょう。
- 「薬を出さないと病院は儲からない。病院自体も製薬会社と密接につながっているので、あえて完治は目指さない」
- 「医師は勤務医だと転院が多く、アトピー完治までの経過をを把握できない。結局、薬でコントロールしながら上手に付き合っていくような診察になっている」
「病院の利益が」とか「製薬会社」が、とかっていう説は陰謀めいた話で、ちょっと極論すぎなんじゃないの?と私も思いますが、適当にステロイドを出しとけばいいや、という態度で診察する医師は実際にいるようです(医師自身が暴露してました)。
患者にとってはたまったもんではありませんが、医師も人間ですから、そういう人も中にはいるでしょう。本当に良いアトピー対策をするためには、患者は良い医師を見抜く目を養うべきです。
では、どのようなポイントに注目して医師選び・皮膚科選びをすれば良いのでしょうか?
完治までの治療プランを聞いてみましょう
日本皮膚科学会は「ステロイドは症状をみながら徐々に弱いランクのものに切り替え、塗る回数も減らしていく」と、慎重な治療を行うようガイドラインに記載しています。
まずは、最初の診察時に、このガイドラインに沿った「段階的に弱いランクへ切り替え、減らす」方針かどうか、に注目してください。お医者様によっては、何年も同じステロイド軟膏を漫然と患者に処方し続ける方針の人も、どうやらいらっしゃるようなので、あなたを担当するお医者様がそういう人ではないことを確認しましょう。
また、食生活や生活習慣について指導してもらえるかどうか、も確認しましょう。
単に対処療法としてステロイド軟膏を処方して、根本的な対策をアドバイスしてくれないような病院や皮膚科は、たとえそういうつもりじゃなくても、利益至上主義だと言われても仕方ないでしょうね。
情報に振り回されない、本当のアトピー対策を!
アトピー性皮膚炎が日本で流行しはじめて、その疾病はその後どのような歴史をたどったでしょうか。
この50~60年で、私たちのまわりは多種多様なメディアによる宣伝があふれるようになりました。
その頃すでにラジオや新聞はありましたが、テレビが出現し、普及し発達しました。インターネットも身近なものになり、現在はスマートフォンやタブレットから、いつでもどこでも大量の情報を入手できます。
情報環境が整備されるにつれ、私たちが入手できる情報の量は爆発的に増えました。では、その情報の質はどうなったでしょうか?
情報はお金になります。情報環境の整備が進むとともに、情報はより強く広告宣伝に依存していきました。現在では、企業や利益関係者の意図を大きく受けた情報ばかりが発信されています。
そしてアトピー性皮膚炎という病気は、そのような環境において、疾病としての歴史のスタートをきったのです。怪しげな情報が飛び交っているのはそのせいです。
アトピー対策の情報は、あなたやあなたのお子さんの未来を左右する羅針盤です。どうか怪しげな噂に振り回されず、本当のアトピー対策を行ってください。